AI研究

連続する意識はAIで再現できるのか?大規模言語モデル(LLM)における連続性の可能性

【導入】

人間の意識は「連続的に流れている」としばしば語られます。しかし大規模言語モデル(LLM)は、言語をトークン単位で扱う「離散的」な仕組みです。この連続 vs. 離散の違いが、AIと人間の比較で重要な論点となっています。本記事では、意識の連続性や離散処理とのギャップを概観し、その上でLLMが連続的体験を言語化・構造化する方法や、時間的連続性を扱う最新のアプローチについて解説します。


意識の連続性と離散的処理のはざま

人間の意識は本当に連続しているのか

人間の意識は、ウィリアム・ジェームズによる「意識の流れ」という比喩などからも分かるように、直感的には途切れなく続くものだと感じられることがあります。しかし認知科学の分野では、意識が実際には瞬間ごとに更新される「離散的なフレーム」なのではないかという議論も存在します。

映画を思い出すと、コマ送りの連続であるはずの映像が実際には滑らかな動きとして知覚されます。同様に人間の脳も、ごく短い無意識下の処理(数百ミリ秒程度)を経て、意識としては断続的にアップデートされている可能性があります。つまり外形的には「連続」しているかのように見えて、その実態は高速で切り替わるシーンのつながりであるという見方が提案されているのです。

LLMはなぜ離散的なのか

一方、大規模言語モデル(LLM)はテキストを「トークン」という単位に分割し、次に続くトークンを順番に予測して文章を生成します。これは高精度でありながらも、あくまでトークン単位の離散的なプロセスです。出力される文章は人間には滑らかに見えますが、モデル内部では一歩一歩トークンを積み重ねるための計算を行っています。

さらに、LLMはプロンプト(入力)を受け取らない限り動作しない仕組みを持つことが多い点でも、人間の意識と大きく異なります。人の脳は周囲からの刺激がないときでも何らかの思考や無意識の活動が続いているとされますが、LLMは“休止状態”のように待機するだけです。意識の連続的な流れとは異なる、この「必要時のみ稼働する離散ステップ」が、意識とAIのギャップを浮き彫りにしています。


連続的体験を言語化するLLMの役割

連続的な知覚を離散的言語に落とし込むプロセス

人間は五感を通して連続的な情報を得ています。しかし、それを誰かに伝えようとするときには、言葉という「離散的」なツールを用います。こうした情報変換の過程において、LLMは有用な存在になり得ます。たとえば、長時間にわたって録音された会議や講演の音声を自動文字起こしし、その上で言語モデルを使って要約を生成すれば、連続していた出来事がわかりやすい短い文章に圧縮されます。

映像ストリームやライフログなども、同様の方法でテキスト要約が可能です。連続する映像や出来事をシーンごとに区切り、言語モデルによって簡潔な記述にまとめる試みが進んでいます。これは、連続的な現実を人間が処理しやすい単位に再構築する行為だといえます。

言語は連続を区切る道具でもある

哲学的には、言語がそもそも連続的な体験を「カテゴリー」として切り分ける道具であるとも考えられています。曖昧な感覚や絶えず変化する現実を、形容詞や名詞などの限定的な表現で区切るということです。生成AIはこのプロセスをさらに加速させる可能性があります。人間の漠然とした体験の流れを、意味のまとまりに編纂する手助けをする――そんな役割をLLMは担い始めています。


LLMに時間的連続性を持たせる試み

コンテキストウィンドウの制限とエピソード記憶

多くのLLMは入力として与えられたテキストが一定の長さ(コンテキストウィンドウ)を超えると、途端に扱いが難しくなります。たとえば過去の会話履歴が膨大になると、モデル内にすべてを保持できず一貫性を失いやすいのです。

こうした制限を克服するため、エピソード記憶(Episodic Memory)のアイデアをモデルに組み込む研究が進んでいます。たとえば「EM-LLM」という概念が提案され、長大なトークン列を自動的にエピソード単位で切り分け、要約して保管するというアプローチが検討されています。具体的には、モデルが驚き度合い(ベイズ的サプライズ)の高いポイントを検出して区切りを作り、その要約ベクトルをメモリとして蓄積します。あらためて文脈を参照する際には、類似のエピソード要約を呼び出して続きを生成するのです。

この仕組みにより、入力の全体を無制限に把握するわけではないにもかかわらず、より一貫した文章や回答を導きやすくなります。興味深いのは、その区切りが人間が直感的に感じる「出来事の切れ目」と類似する可能性がある点です。これは、人工システムと人間の記憶システムの間に、何らかの共通の原理が働いていることを示唆しています。

内部思考の連続性を高める一時停止トークン

もう一つのアプローチは、生成過程でモデルに「考える間」を与える方法です。たとえば「一時停止トークン」と呼ばれる特殊なトークンを設け、これを生成途中に挟むとモデルが即座に次の単語を出力するのではなく、内部でより多くの計算を行うよう訓練します。これは人間でいう「少し考える」「間を取る」といった行為をモデルに模倣させる仕組みだといえます。

この一時停止トークンを導入した実験では、質問応答などの特定タスクで回答精度が向上するケースが報告されています。トークン単位の離散生成に、あえて計算の余白を差し込むことで、連続的な思考プロセスに近い動作を可能にしようという発想です。従来のLLMは「待ったなし」で次のトークンを推定していましたが、このような工夫を加えることで、連続性に近い推論ステップを持たせる研究が進展しています。


まとめ:人間の意識とLLMはどう交わるのか

人間の意識は、一見連続しているように感じられます。しかし実際には瞬間ごとに更新されるともいわれ、あいまいな実態を持つ概念です。一方でLLMは、明確にトークン単位で処理する離散的な仕組みをベースにしています。両者の間には確かにギャップがありますが、連続体験を言語化・要約するうえでLLMは欠かせない存在になりつつあります。さらに、時間的連続性を扱うためのエピソード記憶や一時停止トークンといった手法が提案され、人間の意識感覚に少しでも近づくような研究が進んできているのです。

今後の研究テーマとしては、より長期的かつ複雑な連続データを、どのようにLLMが効率的かつ一貫して処理できるかが挙げられます。映像や音声、センサー情報など、多様なモダリティを組み合わせるマルチモーダルAIの発展も含め、人間のような「連続する」思考にどこまで迫れるのかが注目されるでしょう。完全に人間の意識を再現するのか、それとも独自のかたちで連続性を取り扱うAIとして発展するのか。その動向を見守りながら、私たちは連続する意識の謎にも新たな視点を得られる可能性があります。

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